前1200年頃エーゲ文明が滅亡してから、ギリシア世界にはインド=ヨーロッパ語族のギリシア人であるアカイア人、ドーリア人、イオニア人が侵入して混沌とした時代を迎える。この混乱の中で集住が始まり、3000とも云われるポリスが造られた。ポリスは現在フランス語で警察をさすことばであるが、古代ギリシアのポリスは独立した都市国家であった。
ポリスは、城壁に囲まれ、中央に守護神を祀るアクロポリスの丘があり、麓にはアゴラ(広場)があった。ヘロドトスというギリシアの歴史家は「ギリシアの歴史はポリス歴史である」と記している。前800年頃のポリスの成立から前331年アレキサンダー大王によってギリシアが征服するまで、政治的には独立を保ち、アテネやスパルタのように覇権をとなえる国があっても、一つの領土国家となることはなかった。
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アテネの守護神アテナに捧げられたアクロポリスの丘にそびえるパルテノン神殿 |
戦争を繰り返したのがポリスの歴史であった。古代ギリシア人達は、自らをヘレネスと呼び、ギリシア神話の英雄ヘレンの子孫を自認していた。ギリシア人以外は、バルバロイつまり、聞き苦しい言葉を話す者という意味である。日本人やユダヤ人が、異民族のことを「外人」とか「ゴイム」と呼ぶのに似ている。
ギリシア神話の神々は、キリスト教世界の神とちがい、日本神話に近い八百万の神々がいた。
ギリシア神話には様々な神々の物語が含まれているが、プロメテウスという神は、造った人間に生活の全てを教えた。「人間が裸でくらしているのを哀れにおもったプロメテウスは、服の作り方、火のおこし方、料理の作り方など人間が生きるのに必要なものを全て教えることにした。」
クロノスとかゼウスとか中心となる神が神々の世界を支配していたが、政権交代も行われる神であり、ギリシアのポリスの時代の中心となる神はゼウスであった。ゼウス及びその下での神々は、オリンポスの山の上の世界に生活し、不老不死ではあるが、人間と同じように恋愛も、家庭生活も営みながら生活していた。それぞれのポリスには、守護神がいてポリスを護っていたが、この守護神同士の戦争がポリスの戦争となった。つまり、将棋のコマのように神々によって動かされていたのが守護神の庇護を受けるポリスの民であった。守護神の思うように地上の人間があやつられ、守護神が戦争に負ければ、地上のポリスも敗北するというふうに考えていた。
デルフィというポリスは、アポロン神を守護神としていた。アポロン神は、太陽の神であると同時に預言の神であった。戦争や恋愛の行方を聞くために、ギリシア中から神託を受けに人びとがあつまった。
ギリシア神話の神々が居るというオリンポス山の麓にはオリンピアというポリスがあり、ゼウスを守護神としていた。このオリンピアで4年に一度ゼウスの祭典としてオリンピアの競技が行われた。ちょうど、日本の神社で秋の祭礼に相撲が嘗ておこなわれたいた如くである。さて、このオリンピアの競技は、ギリシア中のポリスから、人びとが集まりポリスの名誉をかけて競技が行われていた。記録に残る最古のオリンピアの競技は、前776年の事で、競技は短距離走のみであった。ゼウスは男神ということで、男性のみが参加資格があり、全裸で競技をしていた。女性は、未婚の女性のみが見学をみとめられていた。
しだいに、盛んになり、前472年には、5日間の大会になっていた。このオリンピアの競技は、ゼウス神の祭典と云うことで、ポリス間の戦争中でも戦いが中止された開催された。勝者は大変な名誉をあたえられ、月桂樹の冠が与えられた。やがて、ギリシアがローマ帝国に支配され、さらにローマ帝国はキリスト教を国教としたのが392年である。国教化の下で異教の祭りであるということで、393年を最後に古代オリンピアの競技が廃止された。
1896年、戦争中にも戦闘が中止されて、競技が行われていた故事にちなんで、世界平和を願うスポーツ祭典としてオリンピアの競技は、近代オリンピックとして復活し今日に至っている。残念ながら、二度の世界大戦中(1916年、1936年、1940年)は中止されたし、モスクワオリンピック(1980年)とロサンゼルスオリンピック(1984年)は、アメリカとソ連(現在のロシア)の二大陣営の対決によりお互いにボイコットされることとなった。
現在はキリスト教国家とイスラム教国家の宗教戦争のような国際的な対立を招いているが、それぞれの宗教の創始者の原点に返ると同一の神である。このことを謙虚に受けとめることにより宗教対立も解消し、ゼウス神のもとに古代オリンピックが行われたように、唯一の創造神の下での大会となることによって、真の国際平和の祭典となることができるのではないか。
参考図書
○「ギリシア・ローマ神話ものがたり」コレット・エスタン、エレーヌ・ラポルト著 田辺希久子訳(創元社 1992年)
平成19年08月18日作成 第037話