前3000年頃ヨーロッパ最古の文明とされているエーゲ文明(前3000年頃〜前1200年頃)が発達した、オリエントから近く、オリエント文明の影響を受けているとされる。エーゲ文明の中でもクレタ文明(前2000年〜前1200年)とトロイ文明(前2600年頃〜前1200年頃)を取り上げる。
クレタ島と小アジア、アテネなどのあるバルカン半島に囲まれた海をエーゲ海と言い、オリエント文明の影響を受けてギリシア文明の源流となるエーゲ文明が生まれた。
トロイ文明の発掘は、「トロイの木馬」の物語に始まる。「トロイの木馬」の話は、壮大なギリシア神話の物語の一つで、ホメロス(前8世紀後半のギリシアの詩人)によって書かれた叙事詩「イリアス」「オデッセイア」の主人公の達が活躍する中の物語である。ミケーネの王アガメムノンが、自分の弟の后だったギリシア第一の美人ヘレネが、トロイの王子パリスに誘惑され、パリスの后になったこと事に対して、復習するために、英雄のアキレスなどギリシアの英雄達を率いて、海を渡ってトロイを攻めた。しかし、トロイは堅固な城壁に守られて10年たっても陥落しない。そこでギリシア軍はオデッセイスの案によって、巨大な木馬をつくり、中に兵士を潜ませて退却を装った。ギリシア軍が木馬を残して、退却したのをみたトロイ側は、木馬を戦勝の記念として、トロイの城内に入れて、戦勝の祝賀会をおこなった。隙をみて巨大な木馬の中に隠れいたギリシアの兵士が、城内から、城門を開いたと同時に、退却したと見せかけていたギリシア軍がトロイに攻め入りトロイは滅亡してしまった。
この「トロイの木馬」の物語を、「子供のための世界史」の中で知り、この物語を信じて、遺跡の発掘を夢見たのが、ハインリッヒ・シュリーマン(1822〜1890)である。ところが、家が没落してしまったので、発掘のために商売に精を出し、40歳を超えることには大金持ちになった。商売をやめ、こどもの頃からの夢を果たすために発掘をはじめた。
当時、ギリシア神話や「トロイの木馬」の話は、空想にすぎないと誰もがおもっていた。ところが、私財を投じて、物語の出発点である、ミケーネの王の墓を発掘し、トロイの遺跡を発掘して莫大な財宝を発掘した。トロイの遺跡は九層のも渡っており、長期にわたって都市が築かれていた。シュリーマンが、この「トロイの木馬」の物語に出てくる遺跡は、第2層であると考えた。しかし、この遺跡は、紀元前2000年以前の都市跡であり、今日では、第7層の前1250年頃の遺跡がこの「トロイの木馬」の物語の遺跡であるとされている。このシュリーマンの物語は、彼の伝記「古代への情熱」詳しい。今日では、この伝記の内容は、創作であるということになっているが、私財を投じてミケーネ・トロイの遺跡を発掘した功績は消えることはないであろう。今日現在の尺度でもって過去を計り、功績を否定することが流行になっている。
ギリシア神話の物語には、「ミノタウルス伝説」がある。ミノタウルスは、顔が牛で、体が人間の半獣半人の怪人である。海の神ポセイドンの怒りにふれたクレタ島のミノス王の后パシパエは、ポセイドンの呪いによって、牛に恋をして、ミノタウルスが生まれた。ミノタウルスの誕生は、王家の恥なので、迷宮(ラビントス)の奥深く隠していた。ミノス王はアテネを支配していた。ミノタウルスのえさとして毎年の若い男女7名を捧げていた。アテネの王テセウスは、このミノタウルス退治に向かうが、問題は、迷宮をいかに抜け出すかということである。ミノタウルスの妹アリアドネが、テセウスに恋をして、迷宮からの脱出方法を教える。糸巻きをもって中に入り、残された糸をたどって帰ればいいのである。迷宮入りとなった問題を解決する方法を「アリアドネの糸」という。テセウスは、見事にミノタウルスを退治してアリアドネと手を携えてアテネに帰る。この物語も単なる神話物語に過ぎないと考えられていた。ところが、「迷宮」と言える小さな部屋がいっぱいある迷路のような宮殿があったのである。クレタ島のクノッソス宮殿(前2000年頃、前1700年頃再建〜前1400年頃)である。
この遺跡を発掘したのは、アーサー・エバンズ(1851年〜1941年)である。クノッソス宮殿の遺跡を1983年訪問した印象は、コンクリートで再建されていて安っぽい感じがしたが、確かに小さな部屋が沢山あり「迷宮」のようであったことは、紛れもない。展示されていた「牛飛び」の図は、スペインの闘牛のルーツではないかとの印象をうけた。玉座の間には、スフィンクスのようなグリフィン(ライオンの胴体とワシの頭と翼)が狛犬のように侍っていて、エジプト文明との交流を思わせる。当時、エジプトと3・4日の船便で行き来できた。巨大な葡萄酒をいれた壺もあり、平和的な貿易国家であったようである。
文字は、絵文字、線文字A、線文字Bが発見されており、絵文字、線文字Aはサンプルも少なく未解読である。解読すれば、線文字Bを解読したベントリスのように世界史に永遠に記憶されることとなる。
クレタ文明、ミケーネ文明とも前1200年頃、正体不明の「海の民」に滅ぼされてしまった、とされている。
神話はどれだけの事実を含むのかということであるが、ギリシア神話が、ある程度の真実を伝えていることがトロイやクノッソスの発掘で分かった。ギリシア神話に出てくるゼウスやポセイドンなどの神々も実在の王達であった可能性が強いのではないか。エジプト神話に出てくるイシスや、太陽神ラーなどの神々も実在の王であったかもしれない。古代の歴史は、発掘と研究の余地が沢山残っている分野である。
参考図書
○「ギリシアとローマ」村川堅太郎編著(中公文庫 世界の歴史2所収 昭和49年)
平成19年08月08日作成 第035話