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高校生のためのおもしろ歴史教室>余話の部屋

30.ユニークな「日本文明」

 
 サミュエル・ハチントンによる世界の主要文明
 人類の歴史を文明の衝突の歴史であると捉えたサミュエル・ハチントンによれば、現存する世界の主要文明は、以下の7文明に分類されるという。

 中国文明、日本文明、インド文明、イスラム文明、西欧文明、ロシア正教文明、ラテンアメリカ文明

 トインビーなどの多くの歴史家も、日本を独自の文明としている。文明の違いによる価値観の相違は国際紛争となってあらわれる。イスラム文明と、米国を含む西欧文明との衝突がもっとも理解しやすい。多くの文明は、複数の国を含む文明圏を形成している。世界の七大文明のうち、日本は一国一文明で仲間がいない。孤立した文明である。中国文明には、中国、韓国、北朝鮮、ベトナムなどが含まれている。これらは、同一の価値基準をもっていることとなる。

 「和を以て貴しとなす」「言霊挙げせぬ国」「以心伝心」「曖昧力」など、他の文明とは価値観を共有しない。故に、外交交渉においても、個人のつきあいにしても、自己主張する文化をもつ西欧文明の人々、中国文明の中国人・韓国人、イスラム文明の人々との間でディベートで負け、自己主張で負けつづけている現状がある。このような劣等感の下に、教育界をあげて、コミュニケーション力をつけよう、ディベート力をつけようと奔走している。しかし、個人は、自分の長所をしり、長所を伸ばすことによってこそ、発展することができる。

 日本のコミュニケーション力のすばらしさは何かということに目覚めない限りいつまでも劣等感にさいなまれるのではないかと思う。一国一文明をすばらしいことである。この自覚と誇りなくして、猿まねのようにコミュニケーション力の涵養、則ち、ディベート力をつける。さらに国際言語としての英語を身につけさせるようにしないといけないというのは本末転倒ではないかと思う。

「思いやり」は、日本文明独自の発想で、他のどの文明の言葉にもぴったりする言葉はないという。他人のことを思いやって発言する。「和を以て貴しとなす」、以心伝心の心、言挙げをしない(文句を言わない)等々の心を日本のすばらしい言語文化であるということを自覚させることの方が大切ではないかと思う。

 日本精神を体現した江戸末期の武士、明治初期の日本人は、「江戸しぐさ」と呼ばれる和風の振る舞いで西欧諸国では礼儀正しい、立派な国民であると尊敬されていた。英語が出来なくても、堂々と通訳をつうじて世界と渡り合っていた。英語の学習を小学校から始めるより、日本文明のすばらしさ 、日本人としてのアイデンティティこそ、小学校から教えるべきであると思う。

 江戸時代末期に訪れた西欧人は、日本こそ地上の楽園、天国であると絶賛している。また、婦人の地位の高いこと、気品にあふれていること、子供たちも大切にされていること等驚きを隠せなかったようだ。
 世界にたった一つ、一国しかないユニークな日本文明の特徴は、「ジャパンスタンダードとユーラシアスタンダード」「神国日本」の項であげた。

 それらの大元にあるのが、文化と民族の継続性である。さらに、その継続性の中心にあるのが、神道と皇室の存在である。
 縄文時代より一度も侵略され、民族が変わることがなかった。
 朝鮮半島の同盟国百済の滅亡による唐による侵略の危機、元寇の危機、戦国時代のスペイン・ポルトガル人の日本植民地化の危機があったが、文化の交流はできるけれども、攻め込まれにくい島国としての距離感が日本を独立国即、独立の民族たらしめてきた。

 縄文時代は1万6000年前に始まるとされているが、世界最古の土器文明を発展させてきた。火炎土器に見られる芸術性は希有の土器文化である。縄文人は、海の幸、山の幸など豊かな自然の恵みを享受してきた。三内丸山遺跡など、世界の四大文明の発祥地が、砂漠化し廃墟となっているのに対して、自然との共生した、エコ文明を築いていた。この人と自然の一体感、あるいはすべてに神を感じる独自の発想が今も生きている。先住民族や古代人が共有していた神との一体感も神道の神社の中に残されている。
 キリスト教やイスラム教、ユダヤ教といった高等宗教と呼ばれる一神教の極端な思想にけがされることなく、あくまでも自然に謙虚に、人に謙虚に生きてきた。

 この謙虚な姿勢は、他の文明を吸収し極めて日本化するという顕著な寛容性をもはぐくんできた。唐の侵略の危機に対しては、唐化した国家を建設した、大化の改新から平城京の遷都まで、75年で唐の文化を完全に取り入れた国家を形成した。

 1852年のペリーの来航からわずか42年で、西欧文明を取り入れ、大清帝国を圧倒するまでになった。また、52年でロシア帝国と互角に戦い勝利した。このような奇跡は、本来ならあり得ない文明の資質であり、日本文明の特質といえる。

 唐化も西欧化も、和魂洋才の言葉に象徴されるように、縄文時代の自然共生の思想に、民族の継続性故に追加され、日本化したという特徴を持つ。漢文や英語に国語がとってかわることもなかった。「やまと言葉」と呼ばれる縄文以来の言葉がのこされている。言葉は思考の根源であり、文明の継続性を象徴する。

 この文明の継続性の中心にあるのが、神道と皇室の存在である。神道については、いまなお全国の都市に、村々に無数に存在する。縄文以来の自然と人の一体感を示す象徴である。
 皇室は、法王庁にあるローマ教皇と並んで2000年の歴史をほこる権威そのものである。皇室は、日本の民族の継続性と国民性の中心に存在する。皇室は、神話の世界のそのルーツを発する。
 四大文明の内最古のメソポタミア文明やエジプト文明の王たちの先祖は、神々につながります。しかし、エジプト文明やメソポタミア文明の王たちはいません。古代ギリシアにはギリシア神話があり、神々の子孫の王たちが活躍しましたが、その子孫はいま、王位を継承していません。天皇は、神話における神々の子孫が今なお、古代文明さながらに王位を継承しつづけているのです。奇跡の存在です。

 奇跡には奇跡を起こす必然があります。天皇の本質は、祭祀王であり国家の繁栄と国民の安寧を神々に祈る存在であるということを忘れてはなりません。
 アメリカの大統領を、聖書に手をおいて就任の宣誓をします。ドイツの首相は、選挙で選ればれた国家元首である大統領の権威の下に、権力を分掌します。
 天皇は古代において権威とともに権力を掌中に持った時期もありましたが、武家政権の誕生と交代にさいしても権威を保持し、平和裏の政権交代や文化の継続性、文明の継続性を維持してきました。中心がしっかりとあったからこそ、豊かな日本文化と文明の継続性を維持してきたのです。
 
 次に、鎌倉幕府から江戸幕府の650年間に亘る武家政権の時代があったことによる正直と勇気、潔さを行動の基準とする武士道の定着があげられる。鎌倉幕府も江戸幕府も天皇の権威により、権力を認められて成立したという継続性も見落とすことはできない。
 武士道に象徴される、日本人の勇気や潔さを重んじる行動規範は、世界に類を見ないものである。
 日露戦争で勝利したとき、敗北したステッセル将軍に対して、降伏の調印の時に写真をとることを求めたメディアに対して乃木希典将軍は「武士道の精神からいって、ステッセル将軍の恥が後世に残るような写真を撮らせるわけにはいかない」「会見後、我々が友人となった後の写真を1枚だけは許す」との配慮を行った。ロシア皇帝に敗北の責任をとらされて処刑されようとしたとき、よく戦ったと助命の書簡を送ることまでしています。
 アメリカは、大東亜戦争の敗北の責任者の東条英機将軍を見せしめの裁判にかけ、絞首刑にした。この違いは、武士道の面目躍如です。

 江戸時代の国学者大国隆正が1818年にオランダの通辞から聞いた西欧人の中国観、日本観が残されています。

 「西洋諸国の見る所では、アジアに未だ、支那(シナ=中国)、日本の二カ国が西洋に従はない。しかし西洋が連合して当れば、シナは十年で料理できるが、日本は三十年かかるであろう。
 日本は小国であだが、三つの障害がある。
一つは、人口が多く、武くして支那人のたぐひにあらず。
一つは、海岸が多く攻めにくい。
一つは、萬古一姓の天子ありて、人身これを尊ぶ心深し。
三十年で従へることが出来るであろうが、しかし、そのあと、日本国中の人間をことごとく斬りつくし、西洋から移民を送り、草木まで抜き捨てて、植えかえなければ、我々西洋のものにはならない。一人でも日本人を残しておけば、恢復の志を起こし、また燃え立つべし、そんな国が日本だ」

 この言葉は、日本文明の奇跡と、日本の伝統文化その中心にある武士道と天皇を尊重しなくなった現状の原因を示しています。ペリーの来航以来の目的を大東亜戦争に勝利することにより果たし、アメリカの植民地とするための日本弱体化のためには、日本の強さの秘密を封じるしかなかったのです。そして、今成功の寸前にあります。しかし、そのもくろみは成功しないでしょう。東日本大震災で日本民族はめざめつつあります。

 西欧人は、近代的な武器を手に入れ、1492年のコロンブスのアメリカ大陸到着以来300年、着々と全世界を植民地にしていっていました。
 日本を植民地化するには、三つのハードルがあると、オランダ通辞は、世界中を見渡して日本の強さの秘密をあげました。繰り返します。

 一つは、武士道精神。

  鎌倉武士が元寇に際して国を守るという気概を示して日本を守ったことに象徴されます。西欧諸国のアジア・アフリカ・アメリカ・オーストラリア侵略から400年、ペリーが黒船を率いて開国を迫ります。その先にあるのが日本の門戸開放則ち、植民地化でした。アメリカが南北戦争で日本への侵略を一時中断した江戸時代の末、イギリス・フランスは、薩摩藩や長州藩と戦いました。近代兵器を持たないにもかかわらず日本の強靱さを改めて思い知らされます。敗北したことになっていますが、冷静に考えれば被害をうけたのは、イギリスでありフランスでした。日本武士恐るべし、この心意気が明治維新を容易ならしめた要因の一つでした。

 一つは、島国の地理的な条件。
 
  イギリスほど大陸に近くなく、文化の交流はできるが、侵略されにくい天与の地形。

 一つは、日本のアイデンティティの中心にある、神道と皇室である。

  皇室あればこそ、民族と文化の継続性を維持してきた。政権がかわっても、その上の権威として天皇あればこそ、大量虐殺も行われる、速やかに混乱を収拾してきた。

 有色人種で唯一明治維新を成し遂げ、西欧の武器で武装した日本は、白人に対抗し独立を維持しました。独立を維持するために日露戦争を戦いました。そして勝利しました。有色人種がはじめて白人の国を打ち破ったことは、アジア・アフリカに衝撃をあたえました。
 「マニフェストディスティニー(明白な天命)」を信じるアメリカは、西漸運動をつづけ、1898年にはハワイとフィリピンを手に入れました。次に中国を狙っていました。立ちはだかる有色人種の国日本にいらだちを覚え、罠をかけ、大東亜戦争に引き込み、三年半の戦いと、七年にも及ぶ占領政策で、侍の国日本が、再び白人の国そしてアメリカに刃向かうことのないように徹底的に洗脳をおこないました。その洗脳教育が今なお行われている現状があります。

 民族のアイデンティティをなくすとその民族は滅びるしかありません。
 自分の先祖を肯定的に捉えられると言うことは、子孫にとって困難に遭遇したときに自信をもたらすことができます。先例を規範として行動することもできます。民族の歴史を継承することは、いざというときの指針となるということです。
 かつて江戸時代に西欧人が指摘した、日本の強さの中心にある、武士道の精神と皇室と神道を否定する教育が戦後80年近く行われてきました。結果として、今亡国の危機を迎えている。
 まだぎりぎりのところでまにあいます。日本と日本人のすばらしさをじかくすることこそ大切なのです。
 江戸時代まで地上の天国であると西欧人にも中国人にも絶賛された世界で唯一である、日本文明のすばらしさにつて自覚することこそが、武士道精神を発揮し、縄文時代より続く奇跡の日本文明を再建する鍵であると信じる。

 トインビーは伊勢神宮に参拝したときに
「私は、ここ、聖地にあって、全ての宗教の根源的統一性を感じます」と書いている。神道の精神こそ、宗教的な対立を解決すると喝破したのです。
 フランスの作家、オリヴィエ・ジェマントマは「神道なくして日本はない、と。そして、秘めたる自然の精髄をさししめすその表しかたからして、神道は、来るべき世紀(21世紀)に、枢要欠くべからざる役割を演ずるに至るであろう。なぜなら、そのとき、ついに人間は、自然とのコミュニオン(合一)なくしては生きられないと悟であろうから、と。」と「日本待望論」の中で書きました。
 そして、神道の中心に天皇がいることは、紛れもない事実である。戦勝国が仕掛けたマインドコントロールからさめて、しっかりと我々のルーツである日本文明に目を開きたいものである。

参考図書

○「日本人はなぜ世界から尊敬され続けるのか」黄 文雄著(2011年 徳間書店)
「曙の児等よ、海原の児等よ
花と焔との国、力と美との国の児等よ
聴け、果たしなき海の諸々の波が
日出づる諸子の島々を讃ふる栄誉の歌を
諸子の国に七つの栄誉あり
故に七つの大業あり
されば聴け、其の七つの栄誉と七つの使命とを
独り自由を失はざりしアジアの唯一の民よ 
貴国こそアジアに自由を与うべきものなれ
かつて他国に隷属せざりし世界の唯一の民よ
一切の世界の隷属の民のために起つは貴国の任なり
かつて滅びざりし唯一の民よ
一切の人類幸福の敵を亡ぼすは貴国の使命なり
新しき科学と旧き知恵と、ヨーロッパの思想と
アジアの思想とを自己の裏に統一せる唯一の民よ
此等二つの世界、来るべき世の此等両部を統合するは貴国の任なり
流血の跡なき宗教を有てる唯一の民よ
一切の神々を統一して更に神聖なる心理を発揮するは貴国なるべし
建国以来、一系の天皇、永遠に亘る一人の天皇を奉戴せる唯一の民よ
貴国は地上の万国に向かって、人は皆一天の子にして、
天を永遠の君主とする一個の帝国を建国すべきことを教えんがために生まれたり
万国に優りて統一ある民よ 
貴国は来るべき一切の統一に貢献せん為に生まれ
また貴国は戦士なれば、人類の平和を促さん為に生まれたり
曙の児等よ、海原の児等よ
斯く如きは、花と焔との国なる貴国の七つの栄誉と七つの大業となり」(p179〜p181)

 (ポール・リシャール(1874〜1964年)「告日本国」(大川周明・訳、社会教育研究所)
 フランスの神学者・1917年の詩)

○「文明の衝突」サミュエル・ハンチントン著鈴木主税訳 集英社 1998年
○「侵略の世界史 この500年白人は世界で何をしてきたか」清水馨八郎著 祥伝社 平成10年
○「日本人がわすれてしまった『日本文明』の真価」清水馨八郎著 祥伝社 平成11年
○「日本人の本質」中谷輝政著 日本文芸社 2011年
○「日本人の誇り」 藤原正彦著 文春新書(文藝春秋) 2011年
○「日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか」竹田恒泰著 PHP新書(PHP研究所) 2011年
○「日本待望論」 オリビィエ・ジェマントマ著吉田好克訳 産経ニュースサービス 1998年
○「奇跡の日本史 『花づな列島』の恵みを言祝ぐ」増田悦佐著 PHP研究所 2010年
○「千年、働いてきました」野村進著 角川書店 2006年
○「日本の曖昧力」 呉善花著  PHP新書(PHP研究所) 2009年

平成23年08月08日作成  第072話