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 ユダヤ民族はさまざまな名前で呼ばれている。カナン(現在のイスラエル国の地・パレスチナともいう)に移住する紀元前 1200年以前は、ヘブライ(ヘブル)民族、カナン定着から紀元前586年の「バビロン捕囚」まではイスラエル民族、バビロン捕囚以後はユダヤ民族と呼ばれることが多い。ユダヤ民族は本来、セム系民族つまり日本人とも似ているアジア系民族であった。
ユダヤ民族は不思議な民族である。紀元前1020年イスラエル王国を建国し、王国分裂後の紀元前586年に国を失い、1948年に2600年ぶりにイスラエル国として、イスラエル王国と同じ場所に忽然と復活した。その強さは何故だろうか。探ってみたい。
 古代ユダヤ民族の歴史は、旧約聖書に詳しい。正確に述べると、古代ユダヤ民族の宗教ユダヤ教の聖典として旧約聖書はかかれた。やがて、ユダヤ教の宗教改革としてキリスト教が生まれ、イスラム教もユダヤ教とキリスト教を母体として生まれた。しかも、このキリスト教徒とイスラム教徒で世界の人口の半分をしめる。そういった意味でユダヤ民族の歴史を理解することは、世界の半分の一神教の世界を理解する鍵となる。さらに国を失うことにより世界中に散らばったユダヤ民族は、現在、財界、政界、学者の世界で大活躍をしており、世界の冨を握っているとされる。また、ノーベル賞受賞者の実に30%はユダヤ民族であるとされる。このような観点から3回に分けて、古代ユダヤ民族の歴史を述べる。
 聖書(聖書の引用は 新改訳 日本聖書刊行会 1970年 による。)による歴史をたどってみる。
ユダヤ民族の族長アブラハム(紀元前19世紀〜紀元前17世紀頃)は、神より啓示を受けて、カルデアのウル(現在のイラク南部バスラ付近・ウルはシュメールの代表的都市国家)を出発して、約束の地カナン(現在のイスラエル国の地)へ旅立つ。神の啓示を受けたユダヤの族長や宗教的指導者を預言者という。アブラハムが最初の預言者であった。アブラハムに対してヤハウェ(エホバ)の神は、

「あなたはあなたの生まれた故郷、あなたの父の家を出て、わたしが示す地へいけ。
そうすればわたしはあなたを祝福し、あなたの名を大いなるものとしよう。
あなたの名は、祝福となる。
あなたを祝福する者をわたしは祝福し、あなたを呪うものをわたしは呪う。
地上のすべての民族は、あなたによって祝福される。」
(創世記第12章1節〜3節)
「…カナンの全土を、あなたとあなたの後の子孫に永遠の所有としてあたえる。」
(創世記第17章8節)

と約束された。
 さらに、神の試練に耐えたアブラハムを祝福してヤハウェ(エホバ)の神は、ヤハウェ(エホバ)神との契約をまもるならば、

わたしは確かにあなたを大いに祝福し、あなたの子孫を、空の星、海辺の砂のように数多く増し加えよう。……  
あなたの子孫によって、地の全ての国々は祝福を受けるようになる。
(創世記第22章17〜18節)

と約束される。
 アブラハムの子のイサクは、父の地位を受け継ぎ、ユダヤ民族の族長となり、アブラハムと神との契約を引き継ぐこととなる。
一方、別の母によるイシュマエルは、旧約聖書によっても、イスラム教をはじめたムハンマド(マホメット)によってもアブラハムと共にアラブ民族の始祖とされている。ムハンマドも、アブラハムを神の啓示を受けた預言者として大いに敬意を表している。現在不倶戴天の敵のように対立しているユダヤ民族とアラブ民族の和解への鍵は、それぞれの信じる宗教の原点に帰ることにより解決するのではないか。  
 イサクの子のヤコブの時代にユダヤ民族は、エジプトに移住する。ヤコブの別名イスラエルといい、現在のユダヤ民族はすべて、ヤコブの子孫を称している。ヤコブの12名の子達が、のちの十二部族の先祖となる。
紀元前13世紀頃まで、ヤコブの子孫達は、エジプトの地に住み続ける。この頃、ユダヤ民族は、奴隷の地位に甘んじていた。
 祭司階級であるレビ族のモーセ(紀元前1250年頃)は、ヤハウェ神からの啓示を受けて、兄である祭司のアロンの補佐を得て、エジプトからユダヤ民族を救出することに成功する。これを「出エジプト」という。途中、モーセはヤハウェ神から、シナイ山に登るように命ぜられ、十戒を刻んだ石をヤハウェ神から授かった。ユダヤ民族を代表してモーセとヤハウェ神との間に、十戒を守る限りヤハウェ神は、ユダヤ民族を祝福するという新たな契約が結ばれた。
モーセは、イスラム教においてもムハンマドに次ぐ偉大な預言者として称えられている。

「こうして主は、シナイ山でモーセと語り終えられたとき、あかしの板二枚、すなわち、神の指で書かれた石の板をモーセに授けられた。」
(出エジプト記第31章18節)
「板はそれ自体神の作であった。その字は神の字であって、その板に刻まれていた。」
(出エジプト記第32章16節)

 この石の板を運ぶための「契約の箱」のサイズと作り方も詳しくヤハウェ神から示された。ユダヤ民族は、この「契約の箱」を御輿のように大切に担ぎながら、移動した。エジプトから約束の地カナン(現在のイスラエルの地)まで、荒野がつづく。敵対する民も多く、40年の彷徨を経て、モーセが神に召されたあと、ようやくユダヤ民族は、カナンに入ることを許された。
荒野をさまよっている時、ヤハウェ神は、天からマナ(マンナ)と呼ばれる食料をモーセに付き従う民に与えられた。聖書の「出エジプト記」16章33節によると、ヤハウェ神の命令で、記念としてこのマナはつぼに入れられて、保存された。
モーセの次の指導者のヨシュアの時代に約束地カナンの地(現在のイスラエルの地)に入りる事ができた。
 その後約200年間ユダヤ民族は、十二部族に分かれてイスラエルの各地に分散して、進入を喜ばない先住民やまわりの民族との闘争を繰り返していたが、強敵ペリシテ人が現れるに至り、防衛の必要上サウル(紀元前1020年〜紀元前1004年在位)を初代国王として迎え王国を形成することなる。紀元前1020年イスラエル王国の建国である。

参考図書

○「聖書」新改訳(日本聖書刊行会 1970年)
○「旧約聖書ものがたり」ジャック・ミュッセ著田辺希久子訳(創元社 1993年)
○「旧約聖書の世界」 米倉充著(人文書院 1989年)

平成18年12月08日作成  第011話