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   大化の改新以来の中央集権化は、唐の律令体制をモデルとして進められた。この中国化の流れの中で、仏教を国家イデオロギーとすることになった。古来よりの天皇(スメラミコト)の在り方も変化を余儀なくされた。
 720年に完成した「日本書紀」に 天照大神の子孫たる天皇の統治は、天地が続く限り永遠に続くという神の言葉がのせられている。
「葦原の千五百秋の瑞穂の国は、わが子孫の王たるべき国である。皇孫のあなたがいって治めなさい。さあ、いらっしゃい。宝祚(あまつひつぎ)の栄えることは、天地と共に窮まりないだろう」

というのである。「天壌無窮の神勅」という。
 このように、天皇が天皇たりえたのは、血統的に天照大神という天神とつながっているのが天皇の正当性であった。

「わかみかとは あめつちのはしめよりことかた きみとやつこさたまれり」伊勢神宮文庫蔵 神代文字(アヒル文字)で書かれた和氣清麿の奉納文
 孝明天皇(1846年〜1866年在位)の冕冠(べんかん)、皇帝は四界を支配するという中国の思想に基づく。聖武天皇も大仏開眼などの儀式にかぶっていた。(「古代天皇制を考える」大津透 他著
 律令体制国家となった聖武天皇とその子の孝謙天皇(749年〜758年在位)は、758年にそれぞれ勝宝感神聖武皇帝、宝字称徳孝謙皇帝の尊号が贈られた。天皇の称号と共に中国風の皇帝ともなったのである。
 なお、天皇の死後の贈り名、いわゆる漢風諡号(しごう)の聖武天皇、孝謙天皇もこの称号に由来している。また、神武天皇以来の歴代天皇の漢風諡号は、762年から764年の間に一括して淡海三船(天智天皇の玄孫)により選定された。
  中国の皇帝は、有徳者が天(天神)の命をうけて地上の統治権をもつ権威の厳選がある。天命思想である。血統的に天神とつながっているわけではない。天命を受けた者が皇帝となり、子孫が受け継ぐ。子孫に徳が無くなれば、別の有徳者に天命を与え、新しい王朝が創始されるという思想である。

 天武天皇と持統天皇直系最後の天皇である孝謙天皇(女性天皇)は、いったん退位して淳仁天皇(758年〜764年在位)に天皇の地位を譲ったものの、太上天皇として権力を保持した。淳仁天皇と対立が生じると、廃位して自ら再び天皇となった。称徳天皇(764年〜770年在位)である。
 称徳天皇は、聖武天皇・光明皇后の仏教政策を受け継ぎ、現存の世界最古の印刷物として名高い百万塔陀羅尼経事業をはじめ、様々な仏教事業をおこなった。さらに、道鏡(700年〜774年 物部氏の一族)に深く帰依し、764年大臣禅師とし765年太政大臣禅師とし、さらには、766年法王に任じた。女性天皇の宿命として独身をしいられ、天武直系の後継者にもめぐまれなかった称徳天皇は、中国の天命思想に傾注し、道鏡を天皇としようとした。伊勢神宮と共に天皇家と深い関わりにあった宇佐八幡宮の神官が、「道鏡を天皇にしたら天下は太平になる」という神託を伝えた。称徳天皇は、渡りに舟とばかりに和気清麻呂を宇佐八幡宮に使わし、八幡神の神託を確認することとした。清麻呂がもたらしたのは、
 
 「我が国では国家が始まって以来ずっと君臣の秩序が定まっている。臣下が君主になったことなど一度もない。皇位には必ず天皇家の血筋を引く者を立てよ」

 との神託であった。称徳天皇は、この神託をねつ造と決めつけ和気清麻呂を別部穢麻呂(わけべのきたなまろ)と改名し、大隅(鹿児島県)に配流した。
 称徳天皇は、道鏡に皇位を譲ることを断念した。その数ヶ月後にわか病に倒れ、770年8月後継者を定めないまま逝去した。

 この後も、息子を天皇にしようとした足利義満の急死や、天皇に変わろうとした織田信長の横死など、天皇家は幾多の継承の危機を乗り越えて現在に至っている。 
「日本書紀」にある、 天照大神の子孫たる天皇の統治は、天地が続く限り永遠に続くという「天壌無窮(てんじょうむきゅう)の神勅(しんちょく)」のごとく、世界で唯一神話世界の神の子孫たる天皇の皇位継承が行われているのである。日本史の奇跡といえるのではないか。
 ここから、話は飛躍する。聖書には、ヤハウェ神が、イスラエルの王ダビデに対して、「わなたの家とあなたの王国とは、わたしの前にとこしえまでも続き、あなたの王座はとこしえまでも堅く立つ」(サムエル記U第7章16節)とある。ダビデの子孫が王位を継承していたユダ王国は、前587年に新バビロニアに滅ぼされた。ユダ王国で400年以上つづいたダビデの王統は、この時点で行方不明になってしまった。イエスがダビデの子孫であるという主張が聖書でなされているが、ダビデの王統は、シルクロードを東漸して、日本の天皇になったという説もある。

参考図書

○「聖武天皇と仏都平城京」天皇の歴史02 吉川真司著(講談社 2011年)
○「平城京と木簡の世紀」日本の歴史04 渡辺晃宏著 (講談社 2001年)
○「古代天皇制を考える」日本の歴史08 大津透他6名著(講談社 2001年)
○「続日本紀(下)」全現代語訳 宇治谷 孟著(講談社学術文庫 1995年)
○「ついに現れた幻の奉納文 伊勢神宮の古代文字」丹代貞太郎 小島末喜著(三信孔版 昭和52年) 限定出版
  
平成23年02月11日作成 第068話