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 古代ヘブライ民族の始祖アブラハムにヤハウェの神は、祝福を与えられて、「わたしは、あなたが滞在している地、カナンの全土を、あなたとあなたの子孫に永遠の所有としてあたえる。わたしは、彼らの神となる。」(創世記17章8) とおっしゃられた。
 前1020年頃、サウル王によってカナンの地(現在のイスラエル共和国の土地)はヘブライ王国として統一され、ダビデ王(前1004年〜前965年)ソロモン王(前967年〜前928年)時代に全盛を迎えた。
 前928年ソロモンの死後、南王国ユダ王国と北王国イスラエル王国に分裂し、ユダ王国は前586年、イスラエル王国は前721年に滅亡した。
 北王国の民は、アッシリアに連れ去られ行方不明となり「失われた10支族」と呼ばれて現在にいたる。南王国の民はバビロンに連れて行かれたが、帰還を果たし、最終的にローマ帝国に対して後70年と後135年に反乱を起こしイスラエルの地(カナンの地=パレスティナ地方)を永遠に追放され、離散の民となった。

 離散したユダの民は、神との契約を忘れず信仰を捨てなかった。また、ヤハウェの神は、アブラハムとの契約を覚えていて、遂に1948年5月14日イスラエル共和国の建国となった。
 これは、ヤハウェの預言である 「見よ。その日が来る。―――主の御告げ。―――その日、わたしは、わたしの民イスラエルとユダの囚われ人を帰らせると、主は言う。わたしは彼らをその先祖たちに与えた地に帰らせる。彼らはそれを所有する。」(エレミヤ書30章3)が成就されたものとされている。
 アブラハムに対しては、「あなたを祝福する者をわたしは祝福し、あなたをのろう者をわたしはのろう。地上のすべての民は、あなたによって祝福される。」(創世記12章3)
 という預言もあり、「アブラハムの民の国」=「イスラエル共和国」を祝福する民(国)は、祝福される。反対にイスラエル共和国をのろうものは、ヤハウェの神に呪われるとある。
 イスラエル共和国を建国したユダヤ人(南王国の子孫)がイスラム教徒であるパレスティナ人を如何に迫害しようとも、「あなたを祝福する者をわたしは祝福し、あなたをのろう者をわたしはのろう。地上のすべての民は、あなたによって祝福される。」という言葉を信じ、アメリカ合衆国のキリスト教徒は支援をつづけている。
 日本のキリスト教徒の中にも、絶対的なイスラエル共和国支援者がいる所以である。

 ところが、現在のイスラエル共和国のユダヤ人のほとんどは、アブラハムの子孫の民ではないというのである。
 さらに、 イスラエル共和国建国後、古代ヘブライ王国の首都であるエルサレムを1967年に獲得したが、ソロモン王の神殿跡であるというところをいくら発掘しての遺跡が見つからない、ダビデ王やソロモン王の下で繁栄した古代ヘブライ王国があったという痕跡もみあたらないのである。
 アブラハムを族長とした民の子孫こそ、神が祝福を与えた真性のユダヤ人(南王国の民に子孫のこと)と北王国の民の子孫の「失われた10支族」である。しかし、現在のイスラエルにいるユダヤ人の殆どは、後にユダヤ教に改宗した異民族のユダヤ人であるという。
 
アシュケナジー   ユダヤ人の90%を占める。ロシア、ポーランド、ドイツなど東ヨーロッパに居た。ロシアのポグロム、ドイツのホロコーストの犠牲者を多く出す。イスラエル共和国の他、現在アメリカ合衆国、西ヨーロッパに住む。アインシュタインなど白人のユダヤ人。 
スファラディ  ユダヤ人の10%を占める。スペインに住んでいたが、1492年にスペインを追放され、北アフリカに住む。セム系のユダヤ人。  
 ユダヤ人はアシュケナジーとスファラディに大別される。この二つのユダヤ人は、教会であるシナゴクや指導者であるラビも別で交わることがない。その他に、西アジアなどに元々住んでいたオリジナル・ユダヤ人がいるという。ドイツ発祥の大財閥ロスチャイルド家などもオリジナル・ユダヤ人にあたるという。

 ローマ帝国に独立をめざし後70年にユダヤ人は反乱をおこし、ヤハウェの第2神殿を破壊された。さらに後135年に反乱を起こし、エルサレムから完全にユダヤ人は追放されたとされているが、追放された事実はない。そのまま住み続けた。一方ユダヤ教の布教活動も活発に行われており、ローマを始めローマ帝国の各地で信者を獲得していった。
 
イスラエル共和国の民族   宗教  血統 
アシュケナジー・ユダヤ人  ユダヤ教  カザール人(白人) 
スファラディ・ユダヤ人   ユダヤ教  ベルベル人 
パレスティナ人   イスラム教  血統のユダヤ人 
7世紀にイスラム教徒の侵略を受けたパレスチナに残ったアブラハムの子孫の民の血統のユダヤ人は、イスラム教に改宗した。現在のイスラム教徒のパレスチナ人こそ、血統のユダヤ人であることがわかっている。

 ユダヤ教への布教は各地で行われた。幸福のアラビアといわれるイエメンのユダヤ人は、4世紀末にユダヤ教に改宗したヒムヤル王国の子孫である。ヒムヤル王国は525年に滅亡したが、イエメンのユダヤ人として現在にいたる。北アフリカのベルベル人もユダヤ教に改宗した。7世紀末のディーフャー・アル=カーヒナという女王に率いられて果敢にイスラム教の侵略を防いだことが知られている。北アフリカのベルベル人ユダヤ教徒は、イスラム教徒の北アフリカ征服に伴いスペインに逃れスファラディ・ユダヤ人となった。ベルベル人の大半は、イスラム教徒となり現在に至っている。
 
シュロモー・サンドによると、イスラエル共和国を構成しているユダヤ人は、改宗ユダヤ教徒をルーツとしていて、アブラハム・イサクの子孫である血統のユダヤ人ではないという。迫害されているパレスティナ人こそ、現在はイスラム教徒であるが、アブラハム・イサクの子孫である血統のユダヤ人であるという。アシュケナジー・ユダヤ人は、中央アジアのカザール王国の民の子孫であり、スファラディ・ユダヤ人は、北アフリカのベルベル人ユダヤ教徒の子孫であるという。
黒海とカスピ海の間から北にかけて650年頃建国されたカザール王国があった。西のキリスト教国であるビザンティン帝国、南のイスラム帝国に挟まれたカザール王国のカガン(王)は、進退窮まって740年頃イスラム教、キリスト教のルーツであるユダヤ教に改宗した。そして、白人であるカザールの民もユダヤ教徒となった。やがて、12世紀から13世紀にかけて、カザール王国は滅亡した。カザールのユダヤ人は、西の方に逃れロシア、ポーランド、ドイツに移住しアシュケナジー・ユダヤ人となった。   何という皮肉であろうか。イスラエル共和国で迫害されているパレスティナ人こそ神から祝福されたアブラハムの子孫の古代ユダヤ人の血統であることになる。
 アシュケナジー、スファラディとも血統のユダヤ人でないとすれば、「あなたを祝福する者をわたしは祝福し、あなたをのろう者をわたしはのろう。地上のすべての民は、あなたによって祝福される。」というヤハウェの言葉を信じ、イスラエル共和国を支援してきたアメリカ合衆国は、支援の根拠を失うことになる。アメリカ合衆国の支援でバランスを保っていたイスラエル共和国対イスラム教国家のバランスがくずれると、イスラム教国家のイスラエル攻撃で始まるとされる第三次世界大戦(ハルマゲドン)も現実性をおびてくる。

 エルサレムのどこを掘ってもダビデ、ソロモン王の遺跡が見つからないとなると、「聖書アラビア起源説」が信憑性をおびてくる。アラビア半島のアシール地方が古代ヘブライ王国の故地であるとするならば、パレスティナ人自体も、血統のユダヤ人ではなく、改宗ユダヤ人の可能性がでてくる。 (「ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたか」シュロモー・サンドによる)

参考図書

○「ユダヤ人の歴史」セーシル・ロス著長谷川真・安積鋭二訳 みすず書房 1966年
○「ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたのか」シュロモー・サンド著高橋武智監訳佐々木康之・木村高子訳 武田ランダムハウスジャパン 2010年
○「ユダヤ人とは誰か ―第十三支族●カザール王国の謎」アーサー・ケスラー著宇野正美訳 三交社 1990年
○「ハザール 謎の帝国」S・A・プリュートニェヴァ著城田俊訳 新潮社 1996年

平成22年09月17日作成   第065話