本文へスキップ

高校生のためのおもしろ歴史教室>読書案内

「日本人と天皇」松村剛著    

 詳しくは、「日本人と天皇」松村剛著(1989年 PHP研究所) です。
  仁徳天皇が「高殿に登って遙かに眺めると、人家の煙があたりに見なれない。これは人民達が貧しくて、炊く人がいないのだろう」「今後三年間すべて課税をやめ、人民の苦しみを柔わらげよう」「人民(大御宝)が貧しいのは自分が貧しいのと同じである。人民が富んだならば自分が富んだことになる。人民が富んでいるのに、人君(天皇)が貧しいということはないのである。」(宇治谷孟の訳による)

この日本書記の逸話にちなんで仁徳天皇の御製とされる、課税を免除して国力を回復したあとの和歌に、

 高き屋にのぼりて見れば 煙立つ民のかまどはにひはいにけり(新古 707)

というのがあります。
 この「日本人と天皇」という本を読むと、この逸話は仁徳天皇のものだけではないように感じられます。歴代の天皇もこの祈りをもたれ、現在の明仁天皇にまで引き継がれる伝統的な祭祀王たる天皇(スメラミコト)のあり方であることがよく分かります。

   南北朝の光厳天皇の和歌
 寒からじ 民のわら屋を思うには ふすまのうちの 我もはずかし

    江戸時代の櫻町天皇の和歌
 思うには まかせぬ世もいかでかは なべての民の心やすめむ

     孝明天皇の和歌
 あさふゆに 民やすかれと おもふ身のこころにかかる 異國(ことくに)の船

 この本の第二章には、このような歴代天皇の和歌が多く紹介されています。世界中どこの国にもない天皇の祈りです。目次を紹介します。

   序章  「昭和」のはじまり
   第一章  日本の「独立」と天皇
   第二章  祭祀王
   第三章  国民国家の形成と明治天皇
   第四章  昭和天皇
   終章   日本文化と皇室

古本屋でしかない本ですが、ぜひ読んでいただきたいと思います。欧州や中国、アジア諸国の覇王と祭祀王(国民の幸せを神に祈り、神を祭祀する王)の天皇との違いがよく理解できるわかりやすく読みやすい本です。

あわせて、祭祀王としての明仁天皇陛下・美智子皇后陛下の祈りがわかる二冊の本を紹介します。こちらも、ぜひ、読んでいただきたいとおもいます。

 「皇后美智子さま 祈りの御歌」竹本忠雄著(平成20年 扶桑社)
 「天皇・皇后両陛下 心に残る 珠玉の御言葉」松崎敏彌著(2012年 日本文芸社) 

平成24年11月15日作成